―ただ、君に触れたかった。
その前に立つといつも君の姿が目に入る。
ゆっくりと微笑むと、君も同じように返してくれた。
右手を差し出すと左手を出してくれた。
ため息をつくと、君も同じ気持ちだった。
最初は、それだけでよかった。
「君に、会いたい」
いつからだろう、こんな気持ちになったのは。
白い壁、低い天井、張られたポスター……。
こちらと何一つ変わらない。
君ならきっと誰よりもわかりあえると思っていた。
「でも、これが現実、か……」
差し出した手はいつも、この数ミリの壁に遮られる。
君も、悲しいんだね。
そんな顔をしないでくれよ、僕まで悲しくなる。
数ミリ越しの額のキス。
冷たかった。
「そうだ、壁を壊してしまおう」
名案だと思った。
僕にはたくさんの時間があるし、それほどこれが難しいことだと思えなかった。
さっそく、ヤスリを買ってきて、壁を削り始めた。
始めてみるとこの壁が酷く脆いものだということに気付いた。
ちょっと力を込めただけで白くにごり、ヒビがはいってしまう。
だから、慎重に、少しずつ削っていった。
作業をしてる間は集中していたし、何も考えられなかった。
だけど、たまに誰かの顔がよぎったり、メロディが浮かぶことがあった。
そして、疲れて顔を上げると君が不安そうに僕を見つめていた。
「大丈夫、きっと」
自分に言い聞かせるように言うと、君は微笑んでくれたっけ。
元気付けられて、幸せな気分になった。
そんなことをしながら、壁は確実に薄くなっていった。
「もうすぐだよ」
声は聞こえなかったけど、君は頷いてくれた。
そして、何日?何十日?何百日?
もう日常になってしまったこの行為に終わりが訪れた。
コツン
ヤスリが今までにない感触を伝えてくる。
「やった。これで君に……」
喜びと達成感、そして君に会えることに感情を抑えられなくて、狂ったように顔を上げた。
「あ……」
君がいない。
君がいない。
「なんで……なんで……」
余計なことだったのか?
怒らせてしまったのか?
そんな疑問が浮かんで消える。
「あは……あはは……」
もう、遅い。
何をしても君は帰ってこない。
そう、わかってしまった。
±0になった壁を前に僕は崩れ、そして、ふと、窓を見た。
“そこに君がいた”
「……え?」
驚いて顔に手を当てる。
君も手を当てた、酷く醜い顔で。
それを見て僕は君が/僕が映るものをすべて破壊した。
結局、僕は縛られて、天井を見ている。
破片がキラキラと輝くこの部屋で。
―ただ、僕は僕に会ってみたかった。
その前に立つといつも君の姿が目に入る。
ゆっくりと微笑むと、君も同じように返してくれた。
右手を差し出すと左手を出してくれた。
ため息をつくと、君も同じ気持ちだった。
最初は、それだけでよかった。
「君に、会いたい」
いつからだろう、こんな気持ちになったのは。
白い壁、低い天井、張られたポスター……。
こちらと何一つ変わらない。
君ならきっと誰よりもわかりあえると思っていた。
「でも、これが現実、か……」
差し出した手はいつも、この数ミリの壁に遮られる。
君も、悲しいんだね。
そんな顔をしないでくれよ、僕まで悲しくなる。
数ミリ越しの額のキス。
冷たかった。
「そうだ、壁を壊してしまおう」
名案だと思った。
僕にはたくさんの時間があるし、それほどこれが難しいことだと思えなかった。
さっそく、ヤスリを買ってきて、壁を削り始めた。
始めてみるとこの壁が酷く脆いものだということに気付いた。
ちょっと力を込めただけで白くにごり、ヒビがはいってしまう。
だから、慎重に、少しずつ削っていった。
作業をしてる間は集中していたし、何も考えられなかった。
だけど、たまに誰かの顔がよぎったり、メロディが浮かぶことがあった。
そして、疲れて顔を上げると君が不安そうに僕を見つめていた。
「大丈夫、きっと」
自分に言い聞かせるように言うと、君は微笑んでくれたっけ。
元気付けられて、幸せな気分になった。
そんなことをしながら、壁は確実に薄くなっていった。
「もうすぐだよ」
声は聞こえなかったけど、君は頷いてくれた。
そして、何日?何十日?何百日?
もう日常になってしまったこの行為に終わりが訪れた。
コツン
ヤスリが今までにない感触を伝えてくる。
「やった。これで君に……」
喜びと達成感、そして君に会えることに感情を抑えられなくて、狂ったように顔を上げた。
「あ……」
君がいない。
君がいない。
「なんで……なんで……」
余計なことだったのか?
怒らせてしまったのか?
そんな疑問が浮かんで消える。
「あは……あはは……」
もう、遅い。
何をしても君は帰ってこない。
そう、わかってしまった。
±0になった壁を前に僕は崩れ、そして、ふと、窓を見た。
“そこに君がいた”
「……え?」
驚いて顔に手を当てる。
君も手を当てた、酷く醜い顔で。
それを見て僕は君が/僕が映るものをすべて破壊した。
結局、僕は縛られて、天井を見ている。
破片がキラキラと輝くこの部屋で。
―ただ、僕は僕に会ってみたかった。
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by iceman0560
| 2005-07-16 23:36
| 書き物